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内部統制の評価範囲とは?評価の基準や決定のフローを順を追って解説

内部統制の有効性を評価する場合、評価対象となる範囲を決める必要があります。評価範囲をあらかじめ決定しておかないと、何をどこまで評価すればよいか分からなくなってしまうからです。
経営者は一貫性をもって評価の基準や評価範囲の決定手順を事前に定めておく必要があります。本記事では、内部統制の評価範囲の決定方法や決定の流れについて詳しく解説していきます。


財務報告に係る内部統制の評価範囲は?

財務報告に係る内部統制の評価範囲は、主に以下の要素が考慮されます。
- 財務諸表の表示及び開示
- 企業活動を構成する事業又は業務
- 財務報告の基礎となる取引又は事象
- 主要な業務プロセス
引用: 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 p.12
財務諸表の表示及び開示に関しては、財務諸表の中でどの勘定科目が重要なのか、重要と考える金額はいくらか、そしてそれらが与える質的影響はどの程度かを評価範囲の決定の際に考慮することが求められます。
企業活動を構成する事業又は業務は、財務諸表全体の中で、どの事業が会社にとって主力か、どの業務が重要かを検討したうえで評価範囲を選定することを求めています。もちろん金額が大きい事業や取引規模の大きい業務は重要と判断して評価範囲に含まれる可能性が高いです。
財務報告の基礎となる取引又は事象は、各事業の中で、財務報告の基礎となる取引又は事象は何か、という要素です。例えば、売上を構成する取引、減損損失のトリガーとなる事象、といった重要な勘定科目に紐づく取引や事象は評価範囲に含まれます。
主要な業務プロセスは、例えば販売プロセスや購買プロセスなどです。取引は、購買、販売、債権管理、といった各プロセスに分かれており、そのプロセスごとに財務報告に係る影響度合を判断し、評価範囲を決定します。
これらの要素を複合的に勘案して、評価範囲を決定していきます。
内部統制の監査については、次の記事を参考にしてください。
内部統制と内部監査の違いは?両者の実施目的や内容・流れを解説
評価範囲の決定までのフロー
財務報告に係る内部統制の評価範囲を決定するプロセスは、段階的で体系的なアプローチが求められます。そのフローは以下の通りです。
- 全社的な内部統制
- 最初のステップは、全社的な内部統制の評価です。これは、組織全体の統制環境を理解し、統制の枠組みが全体としてどのように機能しているかを評価します。全社的な内部統制の有効性が確認されれば、個別の業務プロセスの評価に移行できます。
- 決算・財務報告プロセスの評価(全社的な観点)
- この段階では、決算・財務報告プロセス全体を評価します。これには、財務諸表の作成、開示文書の準備、などが含まれます。
- 決算・財務報告プロセスの評価(固有の業務プロセスの観点)
- ここでは、個別の決算・財務報告プロセスに注目し、特定の取引や事象に関連する項目やリスクが高いと判断される業務プロセスの詳細な評価を行います。
- 決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスの評価
- 最終段階では、特定の業務プロセスや活動が財務報告に与える影響を評価します。重要な勘定科目に至る業務プロセスや、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性のある個別の業務プロセスを特定し、その内部統制の有効性を評価します。
このプロセスを通じて、内部統制の評価範囲を決定していきます。また、評価範囲の決定は、業務の変化や組織の動向に応じて柔軟に行われるべきであり、定期的な見直しも重要です。
各内部統制の評価範囲について

内部統制の評価範囲は、企業の財務報告の信頼性を確保するために重要な要素です。
この評価範囲は大きく分けて、全社的な内部統制、決算・財務報告プロセスの評価(全社的な観点)、決算・財務報告プロセスの評価(固有の業務プロセスの観点)、決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスの評価に分類されます。
これらの範囲を適切に設定し評価することで、企業は財務報告の信頼性を高めることができます。
全社的な内部統制の評価範囲
全社的な内部統制の評価範囲は、企業全体の統制環境と統制の枠組みを包括的に評価することが目的です。この評価では、主に組織の風土や倫理観、経営者の姿勢、内部統制に対する理解度や意識の高さなどが重視されます。
具体的には、企業のガバナンス構造、リスク管理体制、情報システム、内部監査機能、従業員への教育・訓練、コンプライアンスプログラムなどが評価の対象となります。
なお、原則として、企業グループにおける全ての事業拠点が全社的な内部統制の評価範囲に含まれます。ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点は、その重要性を勘案して、評価対象としないことも可能です。
この場合における重要性が僅少である事業拠点については、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」に以下のように記載されています。
「財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点」の判断については、例えば、売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして、評価の対象からはずすといった取扱いが考えられるが、その判断は、経営者において、必要に応じて監査人と協議して行われるべきものであり、特定の比率を機械的に適用すべきものではないことに留意する。
引用: 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 p.64
内部統制とガバナンスについては、次の記事を参考にしてください。
内部統制とコーポレートガバナンスの違いとは?|2つの関係やそれぞれについて解説
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価範囲(全社的な観点)
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価範囲は、財務諸表の作成及び報告プロセス全体に重点を置いています。
この範囲では、財務データの収集、加工、伝達プロセスが適切に機能しているかどうかを確認します。主な評価対象は、総勘定元帳から財務諸表を作成する手続、連結修正や組替の手続、財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続、などです。
決算・財務報告プロセスに係る内部統制(全社的な観点)の評価範囲は、全社的な内部統制と同じになるケースが一般的です。
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価範囲(固有の業務プロセスの観点)
決算・財務報告プロセスに係る内部統制のうち、全社的な観点で評価するもの以外の固有の業務プロセスとは、例えば、減損や税効果といった、個々の勘定に紐づくプロセスのことです。
なお、固有の業務プロセスに関する評価範囲は、次のその他の業務プロセスに係る内部統制の評価範囲の決定方法と同じです。
決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスに係る内部統制の評価範囲
その他の業務プロセスに係る内部統制の評価範囲は、財務報告に直接的な影響を及ぼす可能性のある特定の業務領域が対象です。
ここでは、個別の事業プロセスや取引が財務報告の信頼性にどのように影響するかを検証します。評価は、主に重要な勘定科目に関連する業務プロセスや、特定のリスク要因が存在する業務プロセスに焦点を当てます。
ここに含まれるプロセスは、販売、購買、在庫管理、資金管理、人事・給与計算などの業務です。これらのプロセスでは、取引の正確な記録、文書化された手順の遵守、財務報告への影響評価などが重要です。
また、リスクの高い取引や複雑な会計処理が必要な取引、非定型取引なども、この評価範囲内で特に注目されます。
評価範囲の決定方法は3段階です。まず、重要な事業拠点を選定します。重要な事業拠点とは、文字通り重要性の高い事業を行っている単位です。事業拠点は必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、法人や業態やセグメントによって事業拠点が識別されます。
そして、重要な事業拠点の決定方法は、例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする、などです。
なお、ここでの一定割合とは、実施基準上、全社的な内部統制の評価が良好であれば連結ベースの売上高等の概ね2/3程度といった例が示されています。
これも機械的に適用するのではなく、前年度の評価結果、内部統制の整備状況に関する大きな変更の有無、グループにおける主要度合、などを勘案して総合的に判断する必要があることに留意しましょう。
そして、重要な事業拠点が選定されたのちに、評価対象となる業務プロセスを識別します。一般的な事業会社であれば、重要な事業拠点における売上、売掛金及び棚卸資産に至る業務プロセスは、原則として、全てを評価対象とすることが求められます。
しかし、その3勘定の中でも財務報告への影響度が僅少である業務プロセスは評価範囲から除外することもできます。その場合は、なぜ評価範囲から除外したかを記録する必要がある点にご留意ください。
また、例えば棚卸資産に至る業務プロセスであっても、販売、在庫管理、原価計算、の全ての関連するプロセスを評価しなければならないわけではありません。
さらに、3勘定自体もあくまで例示であり、例えば在庫の発生しないビジネスや人件費が重要なビジネスであれば、異なる勘定科目に係るプロセスが評価範囲になることもあり得ます。
最後に、重要性の大きい業務プロセスを個別に評価対象に追加します。これは重要な事業拠点だけでなく、すべての事業拠点で検討しなければなりません。
重要性の大きい業務プロセスとは、①リスクが大きい取引、②見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目、③非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いもの、などがあげられます。
以上のフローに沿って、業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を決定します。
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内部統制の評価範囲を決定する際の注意点

内部統制の評価範囲を決定する際、企業の経営者は、財務報告の信頼性を確保するために、いくつかの重要な要素の考慮が必要です。正確な評価範囲の設定は、効率的で効果的な内部統制の実施に不可欠であり、そのためには以下の点に注意を払う必要があります。
評価範囲の決定時期
内部統制の評価範囲を決定する適切な時期は、以下のように示されています。
経営者の内部統制の評価の範囲の決定に係る監査人と経営者との協議の実施時期については、監査計画の策定に先立って実施することが適当である。この協議を受けて、財務諸表監査と内部統制監査を一体として実施するための監査計画の策定を行うことになる。経営者との協議の時期は、具体的には監査対象事業年度の初期の段階に実施することが考えられる。
引用: 財務報告に係る内部統制の監査 p.7
この時期に決定することにより、経営者は年度を通じて内部統制の有効性を評価し、必要に応じて適切な調整ができます。
また、早期に評価範囲を決定することは、監査人が監査計画を策定し、財務諸表監査と内部統制監査を一体として実施する上での効率性と効果性を高めるためにも重要です。時期を逸すると、評価プロセスの遅延や不十分な評価につながり、最終的には企業の財務報告の信頼性に悪影響を及ぼす可能性があります。
監査人との協議を行う
内部統制の評価範囲を決定した後、経営者は監査人と協議を行うことが適切です。この協議は、経営者が決定した評価範囲の妥当性を確認し、必要に応じて調整するために重要です。
監査人は、経営者の評価範囲が適切かどうかを検討し、不備がある場合は経営者に新たな評価範囲での評価を行うよう助言します。
監査人との協議は、財務諸表監査と内部統制監査の一体的な実施を促進するためにも不可欠です。協議を通じて、監査計画の策定や実施手順の立案における監査人の意見や提案を取り入れることができます。
また、協議は、内部統制の評価範囲の決定に先立って行うことが適当であり、これにより、監査人はより効果的かつ効率的に監査活動を計画し実施することが可能となります。
結論として、内部統制の評価範囲を決定する際は、適切な時期に適切な範囲を設定し、監査人との積極的な協議を行うことが、内部統制の効果的な運用と監査の成功に不可欠です。
内部統制の評価範囲の決定に際して記録すべき内容

内部統制の評価範囲を決定する際、監査人は監査調書にさまざまな事項を記録する必要があります。企業側もこれらの内容を記録しておくことが望ましいとされていますが、法的な義務ではありません。
ただし、よいガバナンスと透明性を確保するため、企業側がこれらの事項を記録することは推奨されます。
内部統制監査のチェックリストについては、次の記事を参考にしてください。
全社的な内部統制のチェックリストとは?6つの要素別のチェック項目
記録すべき内容
内部統制の評価範囲の妥当性に関連して、監査調書への記録が推奨される事項には以下のようなものがあります。
1. 内部統制の評価の範囲に関する経営者との協議の実施
経営者による内部統制の評価の範囲について当該範囲を決定した方法及び根拠について経営者と協議した結果を記録する。2. 全社的な内部統制及び全社レベルの決算・財務報告プロセスの評価範囲の検討
ア.評価範囲の選定について理解した内容
イ.評価対象から除外した事業拠点又は全社的な内部統制と全社レベルの決算・財務報告プロセスで評価対象となる事業拠点に差異がある場合、その検討結果
ウ.評価範囲が妥当でないと判断した場合には、経営者との協議結果3. 業務プロセスに係る内部統制の評価範囲の検討
ア.重要な事業拠点の選定重要な事業拠点の選定の検討に当たり、次の事項を監査調書に記録する。
(ア) 評価範囲の選定について理解した内容
(イ) 重要な事業拠点の捉え方、採用する選定指標の妥当性についての検討結果
(ウ) 選定指標に基づく選定割合及び選定した重要な事業拠点の妥当性に関する検討結果
イ.評価対象とする業務プロセスの識別企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス及び財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加する業務プロセスのそれぞれについて、次の事項を監査調書に記録する。
(ア) 経営者が評価対象として決定した業務プロセスの範囲について理解した内容内基報1-73
(イ) 評価対象となる業務プロセスに委託業務が含まれているかどうかについて理解した内容
(ウ) 当該委託業務が重要な業務プロセスの一部を構成しているかどうかについて理解した内容
(エ) 評価範囲が妥当でないと判断した場合には、経営者との協議結果
引用: 財務報告に係る内部統制の監査 p.72
これらの事項を参考に、監査調書に記録する内容を検討してみてください。
内部統制の評価項目例は、次の記事を参考にしてください。
全社的な内部統制に関する42の評価項目例とは?実施基準の具体的な内容を紹介
まとめ
内部統制の評価範囲を決定することは、企業の内部統制システムの有効性を適切に評価する上で欠かせません。評価範囲の決定には、事業の性質や規模、財務報告への影響の大きさなどを考慮し、全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制の両方を検討する必要があります。
経営者は、評価範囲の決定手順と基準を明確に設定し、適切性を監査人と協議しながら定めることが重要です。
Co-WARCについて
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