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内部統制のキーコントロールとは|選定の手順やポイントを解説

本記事では、内部統制報告制度におけるキーコントロールの重要性と、選定プロセスについて解説します。キーコントロールは、財務報告の信頼性と整合性を保つために不可欠です。適切なキーコントロールの選定は、組織のリスクを効果的に管理し、経営効率を高める鍵となります。本記事を通じて、キーコントロールの実践的な選定手順と、選定において考慮すべき重要なポイントを紹介します。


内部統制のキーコントロール(統制上の要点)とは
監査基準上では「統制上の要点」と呼ばれる、内部統制のキーコントロールとは、企業の財務報告の信頼性と整合性を維持するために不可欠なものです。
上場会社は財務報告の信頼性を担保するために、リスクを識別し、識別したリスクに対して適切な内部統制を設定しなければなりません。その内部統制の中でも、特に重要なものをキーコントロールと呼びます。財務報告の信頼性を担保する上で、キーコントロールは、企業が直面するリスクを効果的に低減し、誤謬や不正を防ぐための重要な要素です。
また、コントロールは「防止的コントロール」と「発見的コントロール」に分けられ、これらのバランスを取る必要があります。防止的コントロールの焦点はリスクの事前予防であるのに対し、発見的コントロールの重点は既に発生した問題を特定して是正することです。
最後に、企業が識別したキーコントロールと監査人が考えるキーコントロールが、一致しているかどうかを確認することも重要です。これにより、内部統制の評価と監査の効率が向上し、企業の財務報告の信頼性が確保されます。
内部統制のキーコントロールの事例
キーコントロールは、コントロールの中でも、財務報告の正確性と信頼性を保証するために重要な役割を果たします。以下は、実務におけるいくつかのキーコントロールの事例を簡潔な箇条書きでまとめたものです。
- 出荷と売上の照合
出荷指示書と実際の出荷商品を照合する
出荷指示書と売上計上内容(得意先、アイテム、数量)を照合する
- 銀行入金記録の確認
銀行の入金記録と売上管理システムの入金データを照合する
- 経費の承認
申請された経費と実際に使われた経費が同じであるかをチェックし、承認する手続を行っている
内部統制のキーコントロールを選定する方法
内部統制を評価する上で、キーコントロールの選定は不可欠です。適切なキーコントロールを選定するプロセスは、主に以下の3段階に分けられます。
1.リスクを洗い出す
リスクの洗い出しは、キーコントロールの選定プロセスにおいて最初のステップです。
リスクの洗い出しの段階では、組織が直面する可能性のある財務報告リスクを特定し、評価します。リスクの特定には、業務プロセスの理解、勘定科目自体が持つリスク、などを検討する必要があります。
例えば、出荷数を誤るリスク、単価の入力を誤るリスク、データが正しく計算されないリスク、漏れなく情報が集計されないリスク、などです。
どのようなリスクが存在するかを検討すると同時にそれらのリスクを漏れなく洗い出せるかが重要なポイントです。
内部統制のリスクの考え方については、次の記事を参考にしてください。
内部統制におけるリスクとは?リスクの評価と対応の重要性と手順
2.コントロールを特定する
リスクを洗い出した後、対応するコントロールを特定します。特定する目的は、洗い出したリスクに対して効果的なコントロールが漏れなく対応しているかを確認するためです。
コントロールは、財務報告プロセスにおける不正や誤りを防止、発見、是正するものです。コントロールの特定には、業務プロセスの理解はもちろん、内部統制自体の仕組みをよく理解しなければ、真にリスクに対応しているかどうか、判断ができません。その意味でも会計処理自体を理解したり、会計基準そのものの知識が必要になったりするケースもあります。また、コントロールを特定した結果、一部のリスクに対して、コントロールが未設置の場合があります。その場合、新たにコントロールを設置することも検討すべきです。
3.キーコントロールを選定する
最終的に、特定されたコントロールの中からキーコントロールを選定します。
キーコントロールとは、コントロールのうち、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす可能性があるもののことをいいます。すべてのコントロールがキーコントロールとなるわけではなく、1つのリスクに対して1つ以上のコントロールがキーコントロールとして選ばれるケースが一般的です。その選定プロセスでは、リスクに対するコントロールの有効性をコントロール同士で比較します。そして、コントロールの中でも最も強いもの、最もリスクに対して有効性が高いものをキーコントロールとして選定します。
キーコントロールの選定は、運用評価手続において、サンプリングテストを実施するため、自社で内部統制を評価する上でも、監査人が内部統制監査を実施する上でも、慎重に検討した方がよいでしょう。
内部統制のキーコントロール選定時の留意点
内部統制報告制度においてキーコントロールの選定は、内部統制の評価を実施する上で重要なプロセスです。キーコントロールを選定する際には、いくつかの重要な留意点があります。これらのポイントを適切に考慮することで、企業は内部統制の評価を効果的かつ効率的に実施できます。
1つのリスクに対して1つ以上のキーコントロールを設定する
キーコントロールの選定時における基本的な原則は、識別された各リスクに対して、少なくとも1つ以上のキーコントロールが設定されていることを確認することです。識別されたリスクに対して、複数のコントロールが設置されているケースがあります。これは、タイミングや担当者が異なるコントロールを複数設けることでリスクに対応するためです。ただし、内部統制の評価を実施する上でのキーコントロールは、1つで充分であるケースがあります。そのため、少なくとも1つのリスクに対して、1つ以上のキーコントロールを設定する必要があります。
防止的コントロール・発見的コントロールのバランスを取る
防止的コントロールの目的は財務報告の誤りを事前に阻止することであり、発見的コントロールの目的は財務報告の誤りの事後的発見と是正です。
例えば、購買プロセスにおいて、防止的コントロールとして購入申請の承認プロセスが存在し、発見的コントロールとしては月次の購買レポートのレビューが行われます。このような組み合わせにより、リスクが発生する前の予防と発生後の迅速な対応の両方を実現します。
リスクに対する感応度の高いコントロールを選定する
リスクに対して直接的かつ効果的に対応できるコントロールがキーコントロールとして選定されます。例えば、金額を誤るリスクに対して、取引の包括的なレビュー作業よりも、1つ1つの取引と原証憑を照合する作業の方が直接的にリスクに対応するコントロールであるため、キーコントロールとして選定されることが一般的です。
キーコントロールとなりやすいコントロールとは
内部統制報告制度において、キーコントロールは企業の財務報告の信頼性に直接的な影響を及ぼします。以下に、キーコントロールとして選定されやすい具体的なポイントを解説します。
システムコントロール
システムコントロールは、システムでの自動処理に関する内部統制です。これらのコントロールは、財務データの処理や報告プロセスにおける誤りや不正を防ぐために重要です。
システムコントロールの例としては、データ入力の際にエラーチェックや出荷台数と単価を自動で集計して売上を計算するプログラムなどがあります。これにより、入力ミスやデータの不整合が最小限に抑えられます。
発見的コントロール
発見的コントロールは、財務報告の誤りを発見し、是正することを目的としています。例えば、経費精算における申請内容と領収書などの根拠資料との突合や経理担当者の承認行為は、一般的な発見的コントロールです。
上席者によるコントロール
上席者によるコントロールは、経営層や管理層が行う監視や承認のプロセスです。
例えば、重要な財務取引に対する上席者の事前承認は、不正行為を防ぐための有効な手段です。上席者が取引を承認することで、その正当性と適切性が確保されます。
これらのキーコントロールの適切な選定は、内部統制の評価の有効性と効率性を高め、財務報告の信頼性を保証する上で極めて重要です。
キーコントロールの絞り込みは評価業務の効率化につながる
内部統制報告制度におけるキーコントロールの絞り込みは、運用状況の評価業務の効率化に大きく寄与します。企業は、統制プロセス全体の中でキーコントロールに焦点を当てることで、時間とリソースの最適な使用を実現できます。
例えば、大手小売業者が在庫管理に関する内部統制を評価する場合、全ての在庫関連コントロールの運用状況を評価するのではなく、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす可能性があるキーコントロールに焦点を絞ることが効率的です。
このように、特定のリスクに対処するコントロールに焦点を絞ることで、より効率的かつ実効性のある評価ができるようになります。
キーコントロールの絞り込みは、内部統制評価に係るリソースを集中させることを可能にします。こうしたアプローチによって、より効果的かつ効率的な運用状況評価を実施できるようになるでしょう。
内部統制の評価項目については、次の記事を参考にしてください。
全社的な内部統制に関する42の評価項目例とは?実施基準の具体的な内容を紹介
まとめ
内部統制のキーコントロールの選定は、企業の財務報告の信頼性を確保し、効率的な内部統制評価を行う上で重要です。本記事では、キーコントロールの選定における具体的な手順と重要なポイントを掘り下げて解説しました。
まず、企業が直面するリスクを識別し、それに対応する適切なコントロールを特定することが、選定プロセスの第一歩です。次に、特定されたコントロールの中から、リスクに直接的に対応し、効果的に問題を防止または発見できるものをキーコントロールとして選定します。この際、防止的コントロールと発見的コントロールのバランスを考慮することが重要です。また、キーコントロールの選定に際しては、リスクの重要度、コントロールの効果の大きさなどを総合的に評価する必要があります。
適切なキーコントロールの選定は、運用状況の評価作業の負担を軽減し、内部統制の評価全体の効率を向上させるものです。
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