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内部統制の不備の事例とは?開示すべき重要な不備の判断基準も解説

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公開日:2024.07.08
最終更新日:2025.06.25
内部統制
内部統制の不備の事例とは?開示すべき重要な不備の判断基準も解説

内部統制の不備は、企業が財務報告に関して適切な管理を行っていない場合に起こります。企業は、重要な不備がある場合には開示する責任がある一方、判断基準は複雑です。不備の影響の大きさや範囲、および公正な情報提供への影響を考慮しながら、開示の必要性を判断することが必要です。本記事では、内部統制の不備の事例と、それを判断するための基準に焦点を当てます。

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内部統制の不備とは

内部統制の不備は、以下のように定義されています。

内部統制の不備は、以下のいずれかの場合に存在する。
① 内部統制の整備及び運用が不適切であり、財務諸表の虚偽表示を適時に防止又は発見・是正できない場合
② 財務諸表の虚偽表示を適時に防止又は発見・是正するのに必要な内部統制が存在しない場合

引用:内部統制の不備に関するコミュニケーション(金融庁)

言い換えれば、内部統制の不備とは、①内部統制が不適切に実施されている場合、②必要な内部統制がそもそも存在していない場合、を指します。内部統制に不備がある場合、財務諸表の虚偽表示リスクが高まり、財務報告の信頼性が損なわれるかもしれません。

よって、財務報告の信頼性を確保し、投資家を保護するために、内部統制の有効性を担保することが、上場企業の経営者には求められるのです。これらの内部統制の不備を特定し、改善するための適切な対策を講じることが重要です。

内部統制の不備については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の開示すべき重要な不備とは?判断基準や検出されたときの対応を解説

内部統制の不備の主な事例

内部統制の不備の主な事例として、以下の3つを挙げて詳しく解説します。

内部統制の不備の一覧表については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の不備一覧表の役割や記載項目は?開示すべき重要な不備とあわせて解説

1.会計上の不正

会計上の不正は、資金の流用や内部管理システムの欠陥によって発生します。資金の流用は、組織内の資金を不正に使用することを指し、しばしば不正な支払いや経費計上によって行われます。資金の流用は、従業員や管理職の権限濫用、または内部管理システムの脆弱性を悪用することにより可能です。これにより、財務報告の信頼性が妨げられ、組織全体の信頼性が損なわれる危険性があるでしょう。

内部管理システムの欠陥も会計上の不正の主な事例です。適切な内部管理が確立されていない場合、取引記録の改ざんや不正なアクセスが行われやすくなります。これに含まれる状況は、適切なアクセス制御や監視システムの不足、社内のダブルチェック体制の欠陥です。組織がこれらの不備を放置すると、不正行為や不正な取引が隠蔽される可能性が高まります。

内部統制の不備が会計上の不正を招くと、会社の評判や信頼性が損なわれ、法的な問題や財務的な損失を引き起こす恐れがあります。適切な内部管理システムを構築し、監視・制御することで、不正行為や欠陥を早期に検出し、予防するための対策を講じることが重要です。また、定期的な内部監査やリスク評価を行うことで、内部統制の改善と強化を図ることが求められます。

2.承認プロセスの不備

承認プロセスの不備は、支出や購買の不正使用につながる主な事例の1つです。組織内での支出や購買活動において、適切な承認が得られない場合、不正な支払いや購買が行われるリスクが高まります。例えば、従業員が自己の利益のために、承認されていない支出を行ったり、不正な購買を実行したりすることです。

また、承認者が自分自身で承認するなど権限を濫用する可能性もあります。これにより、不正な支出が組織の財務に影響を与え、信頼性のある財務報告を妨げることがあります。

承認プロセスの不備は、適切な内部統制が欠如していることを示すものです。それが悪用されると財務報告の信頼性を損なう可能性があります。例えば、支出の承認が適切に行われず、予算を超える支出が行われた場合、企業の財政状況や業績に影響を及ぼす可能性があるでしょう。

このような不備は、組織の経営における信頼性や透明性を損ない、法的な問題や評判への影響を招くことがあります。

組織は、適切な承認プロセスを確立し、権限の委任や支出の承認ルールを明確にすることで、このような不正行為や不備を防ぐための対策を講じることができます。また、内部統制の強化や監視体制の整備を通じて、承認プロセスの不備を早期に検出し、適切な改善を行うことが求められます。

3.決算・財務報告プロセスの不備

決算・財務報告プロセスの不備は、複雑な会計処理の誤りなどによって生じることがあります。決算・財務報告プロセスにおける不備は、適切な開示が行われていないあるいは処理に誤りが生じていることを指し、これが投資家に誤解を与える可能性があるでしょう。

また、内部統制が適切に運用されていなければ、社内ルールの徹底がなされず、誤りや不正などを見逃してしまう可能性があります。

決算・財務報告プロセスにおける不備は、組織が公正で信頼性の高い財務情報を提供できないリスクをもたらします。適切な経理体制が構築できない場合、財務情報に誤りや不正が含まれてしまっている可能性があり、ステークホルダーにとって企業の信頼性の欠如を招くことになるでしょう。

組織は、経理体制強化のために研修などを行うことで決算・財務報告プロセスにおいて誤謬が発生するリスクを軽減することができます。社内での組織力の強化をすることで内部統制を適切に機能させることが重要です。

また、内部統制の改善や透明性を高め、内部のチェック機構を整備することも必要です。定期的な見直しや継続的なプロセス改善を通じて、決算・財務報告プロセスにおける不備を最小限に抑えることが求められます。

内部統制に不備があった事例から学ぶべきポイント

内部統制に不備があった事例から学ぶべき主なポイントとして、以下の4つについて解説します。

1.監査役や取締役との連携

内部統制に不備があった場合、関係部門はもちろんのこと、監査役や取締役と連携することが重要です。具体的には、内部統制の整備状況の評価、運用状況の評価、ロールフォワード手続が終わった各タイミングで、内部統制の不備の共有はしておいた方が良いでしょう。

また、監査法人も内部統制の評価結果については後追いで監査を実施するため、監査法人への共有も必要です。監査役や取締役、そして監査法人との協議の上、他の内部統制への影響がないかなども経営視点で検討しながら、不備を改善していきましょう。

2.コンプライアンス体制の整備・拡充

一般的に、内部統制の不備は、従業員の不注意や理解不足によって発生します。しかし、場合によっては、内部統制を軽視して意図的に実行しなかったり、あるいは不正目的であえて内部統制を無視する、といったことも起きえます。意図的に内部統制が実行されなかった場合、組織全体にコンプライアンスの重要性を徹底するために、トップ層からの明確なメッセージ発信が不可欠です。

従業員の意識を高め、内部統制の重要性を啓発するには、組織内でのコンプライアンス教育やトレーニングが必要です。また、違反行為の報告ルートや調査プロセスを整備し、報告者保護の仕組みを強化します。

トップ層の積極的なリーダーシップにより、社内のコンプライアンス文化を根付かせ、組織の倫理観や透明性を向上させることが重要です。

内部統制とコンプライアンスについては、次の記事を参考にしてください。
内部統制とコンプライアンスの違いとは|押さえるべきポイントを紹介!

3.経営陣による不正

上述の通り、従業員の不注意や不正によって内部統制の不備が検出されることもありますが、基本的には内部統制をいち従業員が無視するのは難しいです。例えば、稟議を通さずに物品を購入したり、承認なしに経費精算を行ったりすることは難しいはずです。したがって、このような内部統制を無効化できるのは最上位の権限を持つ経営陣であることが多いです。

経営陣が意図的に内部統制を無効化している場合、内部統制の不備として取り扱うことはもちろん、他の内部統制でも不備が検出される可能性があります。このように統制環境そのものに不備がある場合、その影響は広範にわたります。

4.グループ内の内部通報制度の在り方

内部通報制度は、組織内での違法行為や不正、倫理規範の違反などを匿名で報告する仕組みです。この制度は、透明性と責任の確保に重要な役割を果たします。

制度の在り方には、報告の容易さや匿名性の確保、そして報告者の保護が含まれます。また、報告された内容に対する迅速な調査と対応も欠かせません。制度の活用度合いは、従業員の信頼感や制度へのアクセスのしやすさ、報告内容への適切な対応によって測られます。

組織全体での制度の周知や教育を行い、報告者が安心して違反を報告できる環境整備が重要です。また、報告内容への適切な対応と報告者の保護が確実に行われることで、内部通報制度の信頼性と効果を高めることが求められます。

開示すべき重要な不備の判断基準

開示すべき重要な不備の判断基準は、財務諸表の虚偽表示につながるリスクを高める可能性が高いかどうかです。これらの不備は、企業の財務報告に重大な影響を及ぼす恐れがあります。たとえば、内部統制の不備が特定の取引の正確な記録や評価を妨げたり、適切な情報の提供を阻害する場合、財務諸表に誤った情報を反映する可能性が高まるでしょう。

この基準は、不備が公正で正確な財務報告に影響を及ぼすかどうかを判断するための指標として機能します。不備の重要性を評価する際には、その影響の大きさや範囲、それが財務諸表にどの程度の影響を及ぼす可能性があるかを考慮します。

上場会社は、公正かつ信頼性のある財務報告を提供する責任を負っています。したがって、内部統制の不備が財務諸表の正確性を損なう可能性がある場合、それを特定し、開示することが求められます。開示すべき重要な不備の基準は、財務報告の信頼性を保つための措置の一環として、適切な情報開示と透明性を確保するために重要な基準です。

金額的重要性

開示すべき重要な不備の判断基準には、金額的重要性が含まれます。特定の不備の影響が一定の金額を超える場合、それは重要な不備とみなされます。不備の影響の大きさや財務報告への影響を測るための指標として機能している判断基準が、金額的重要性です。

例えば、連結総資産、連結売上高、連結税引前当期純利益などに対する比率で金額的重要性を判断します。またそれらの金額は評価対象年度の実績だけでなく、過去の一定期間における平均値をとります。なお、これらの指標はあくまで例示であって、会社の業種や規模や特性に応じて、適切な指標を用いることが求められます。

質的重要性

開示すべき重要な不備の判断基準には、金額的重要性だけでなく質的重要性も含まれます。質的重要性は、特定の不備が企業の運営や投資判断に与える影響を評価する基準です。

例えば、不備が上場廃止基準や財務制限条項に関連する場合、それは質的に重要な不備とみなされるでしょう。また、関連当事者との特定の取引に不正が存在する場合も、重要な不備として開示されるべきです。

質的重要性の基準は、企業の運営や市場での信頼性に影響を与えます。例えば、関連当事者との取引に不正がある場合、その不備が企業経営の透明性や倫理規範に対する信頼性を損なう可能性が高いです。

また、財務制限条項に違反する不備がある場合、企業の財務的な健全性や信用度に関わる重大な問題となります。

開示すべき重要な不備の事例3つ

開示すべき重要な不備の事例として、以下の3つについて詳しく解説します。

会計処理の誤り・決算処理の遅延の事例

脆弱な経理体制による会計処理の恒常的な誤りや決算処理の遅延は、開示すべき重要な不備の事例に該当します。特に繰延税金資産や減損の評価などの見積り項目は、会計処理が複雑になり、かつ、投資の意思決定に与える影響も大きいため、これらのプロセスに関して不備がある場合、経理体制自体が脆弱であると考えられます。このような会計処理の誤りや遅延は、企業の財政状態と経営成績の適時開示の観点から、重要な問題になります。

これらは、企業の経営にも重大な影響を与える可能性がある不備です。正確な会計処理と適時な決算処理は、投資家や関係者に対して信頼性の高い情報を提供するために不可欠です。企業は、適切な経理人員の採用などを通じて、会計処理の精度と決算処理の適時性を確保し、財務報告の信頼性を維持するための努力を継続する必要があります。

在庫の過大計上の事例

在庫の過大計上は、不正目的で行われることもあり、その場合は、開示すべき重要な不備に該当する可能性があります。企業が実際よりも多くの在庫を報告することで、企業の財務状況や業績を歪め、ステークホルダーに対して誤ったイメージを伝える恐れがあり多くのリスクを伴います。

複雑な原価計算や在庫が多くの場所に存在する場合、在庫の過大計上を行うことで、売上原価を過少計上し、売上総利益を多く見せることができます。売上総利益を過大に表示することで、投資家は企業の業績が好調と誤認し、投資の意思決定を行う恐れがあります。

過大な在庫計上は、財務報告の信頼性を損なう重要な要因です。企業は、適切な在庫管理と監査を通じて、正確な在庫評価を確保する必要があります。また、内部統制の強化や透明性の確保を通じて、在庫の適切な計上と報告を実現し、財務報告の信頼性を保つための努力が必要です。

従業員による不適切な取引の事例

従業員による不適切な取引は、通常金額が少額なため、開示すべき重要な不備には該当しません。しかし、慢性的に従業員が不正をしていた場合、開示すべき重要な不備に該当する可能性があります。

従業員による不適切な取引は、予算達成に対する強いプレッシャー、不正が許されてしまう組織の姿勢、不正が出来てしまう脆弱な内部統制、によって引き起こされます。企業経営の信頼性や透明性を損なうだけでなく、法的な問題や組織文化にも大きな悪影響を及ぼします。

これらの不備は、業務プロセスにおける内部統制を強化することはもちろん、組織としてのあり方や文化、あるいは商慣行を見直さなくてはいけません。課題としては根深く、場合によっては経営陣の刷新も必要です。

まとめ

内部統制の不備は、会計処理の誤りや在庫の過大計上、従業員による不適切な取引などさまざまな形で現れます。開示すべき重要な不備を判断する際には、財務報告への影響やリスクの大きさを見極めることが必要です。金額的重要性や質的重要性、また虚偽表示へのリスクも考慮されます。

財務諸表の正確性を維持するため、特に財務情報の虚偽表示につながる可能性が高い不備は開示されるべきです。これらの判断基準を考慮し、組織は内部統制を強化し、不正や誤りを最小限に抑え、ステークホルダーに信頼できる情報を継続的に提供する努力が重要です。


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