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金融商品取引法における内部統制報告制度とは?会社法との違いから提出期限・記載事項まで解説!

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公開日:2024.09.18
最終更新日:2025.06.25
内部統制
金融商品取引法における内部統制報告制度とは?会社法との違いから提出期限・記載事項まで解説!

上場会社は内部統制報告書を作成する義務があり、作成した内部統制報告書については、一部の会社を除き内部統制監査を受けなければなりません。本記事では、金融商品取引法において上場会社に義務付けられている内部統制がどのようなものであるのか解説します。会社法との違いから提出期限・記載事項も解説するのでぜひ参考にしてください。

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金融商品取引法と内部統制報告制度

金融商品取引法とは、証券取引法が改正されたもので、株式や社債などの有価証券やデリバティブなどの金融商品の公正な取引を担保するための法律です。

金融商品取引法は、金融市場の公正性の確保と、投資家保護を主な目的としています。広範な内容を持ち、内部統制報告制度に関する記述は一部に過ぎません。しかし、この一部が、企業の透明性と公正性を大きく左右する重要な役割を担っています。

以下では、金融商品取引法と内部統制報告制度の関係性について解説するとともに、会社法における内部統制に関する定めとの違いを明らかにしていきます。

改正金融商品取引法によって内部統制報告制度が導入された

内部統制報告制度は2006年に改正された金融商品取引法によって導入されました。

内部統制報告制度は、企業に対し、財務報告に係る内部統制の整備と評価を義務付けています。この改正は、アメリカのSOX法(企業改革法)の影響を受けたもので、金融市場の信頼性向上と投資者保護を目的としたものです。J-SOXと呼ばれるこの制度は、金融商品取引法の一部であり、上場企業の財務報告の信頼性を高めるための重要な制度となっています。

上場会社は、経営者が署名した確認書と内部統制報告書を提出することにより、財務報告の信頼性と内部統制の有効性を証明する必要があります。

金融商品取引法上の内部統制の概要

内部統制の目的は、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全の4つです。特に、金融商品取引法上は、財務報告の信頼性を確保するための内部統制について、内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価し、対外的に公表することを求めています。

なお、内部統制は、6つの基本的要素を満たすように構築しなければなりません。基本的要素とは、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、そしてITへの対応のことをいいます。

会社法上の内部統制の概要

一方で、会社法における内部統制は、金融商品取引法とは異なるアプローチを取っています。会社法によれば、大会社(資本金が5億円以上又は負債が200億円以上)は、内部統制システムに関する基本方針を設定し、事業報告に記載する必要があります。

金融商品取引法とは異なり、内部統制について具体的な義務を明示しているわけではないものの善管注意義務にもとづく一定の縛りがあります。

会社法では、内部統制について、以下のように記されています。

”取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備”

出典:e-Govポータル(会社法第362条4項6号)

会社法における内部統制は、企業の全体的なリスク管理とガバナンスの強化に焦点を当てており、財務報告に限らず、企業運営全般の適正性を目指しています。この点で、会社法は企業の社会的責任や倫理的側面を重視する傾向があります。

金融商品取引法と会社法は、それぞれ異なる観点から内部統制を規定していますが、共通するのは企業の業務の適正性と効率性を高め、最終的に経済全体の健全な発展に貢献することです。企業は、これらの法律にもとづく要求を遵守し、適切な内部統制の構築と運用に努める必要があります。

会社法と内部統制における詳細については、以下の記事を参考にしてください。

内部統制システムとは?|会社法なども引用して解説!

会社法と金融商品取引法とで求められる内部統制の違い

会社法と金融商品取引法における内部統制の要求は、適切なコーポレートガバナンスのために重要な役割を果たしています。

2つの法律は、企業運営の適正性と効率性の強化を目的としているものの、内部統制に対するアプローチにおいては、対象範囲や監査主体において顕著な違いを有しています。以下ではこの違いを解説していきます。

対象範囲

  • 会社法における内部統制

会社法上の内部統制は、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制に焦点を当てています。この法律は、大会社において、業務の適正を確保するための体制の整備を求めています。これに含まれている体制の整備とは、情報の保存・管理、損失の危険管理、効率的な職務の執行、法令及び定款の遵守、子会社に関する体制整備などです。

  • 金融商品取引法における内部統制

金融商品取引法上の内部統制は、主に財務報告の信頼性に重点を置いています。対象は、有価証券報告書を提出する上場企業で、これらの企業は内部統制報告書の作成を義務付けられています。外国会社であっても、日本の金融商品取引所に上場している場合、内部統制報告制度の対象となります。金融商品取引法にもとづく内部統制の焦点は、財務報告に関する体制です。

監査主体

  • 会社法における監査主体

会社法における内部統制システムに関する監査は、監査役や内部監査人によって行われます。監査役や内部監査人が独立性を保ちながら、会社の内部統制体制が適切に機能しているかについて評価します。監査役は、内部統制体制の整備について決定または決議があった場合、概要を事業報告の内容として株主総会に提出する責任があります。

  • 金融商品取引法における監査主体

金融商品取引法にもとづく内部統制体制の監査は、会社法同様に監査役や内部監査人が実施します。しかし、内部統制報告書自体は、外部の公認会計士または監査法人の監査を受ける必要があります。これは、内部統制報告制度において求められる内部統制の評価が専門的であり、外部の監査人の監査が必須となっているためです。金融商品取引法における内部統制の評価は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その報告を内閣総理大臣に提出しなければなりません。これに合わせて、内部統制監査報告書を添付する必要があります。なお、資本金100億円未満かつ負債1000億円未満の新規上場企業は、上場から3年間は内部統制報告書の監査の免除を選択することが可能です。

内部統制報告制度における内部統制報告書の提出期限

内部統制報告制度において、対象会社は内部統制報告書を定期的に提出する義務があります。内部統制報告書の提出期限は、企業の有価証券報告書の提出期限と密接に関連しています。具体的には、有価証券報告書の提出期限と同じく、事業年度終了後3か月以内に提出しなければなりません。

内部統制報告書には、【財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項】、【評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項】、【評価結果に関する事項】、【付記事項】、【特記事項】、を章立てて記載しなければなりません。これらの情報が市場と投資者に正確かつタイムリーに提供されることが重要です。

内部統制報告書の提出期限を守ることは、企業が財務情報を適正に管理し、投資者や市場に対する透明性と説明責任を果たすための重要な要素です。このプロセスを通じて、企業は自身の財務報告の信頼性を高め、市場の信頼を獲得し、最終的には投資者保護に寄与することになります。

内部統制報告制度における内部統制報告書の記載事項

上場会社は、自社の内部統制に対する評価を行い、広く公表しなければなりません。このとき利用されるのが、内部統制報告書です。

内部統制報告書は、企業の財務報告の信頼性を保証するための重要な文書となります。報告書には、企業が財務報告に関連する内部統制の有効性をどのように評価しているかが含まれています。

これらの情報は、投資者や市場のステークホルダーに対して、企業の財務報告の信頼性を保証するために欠かせません。

以下では、内部統制報告書に含むべき事項について解説します。

1. 整備及び運用に関する事項

内部統制報告制度における内部統制報告書には、整備及び運用に関する事項として以下の4項目に関する記載が必要です。

  • 財務報告及び財務報告に係る内部統制に責任を有する者の氏名
  • 経営者が、財務報告に係る内部統制の整備及び運用の責任を有している旨
  • 財務報告に係る内部統制を整備及び運用する際に準拠した一般に公正妥当と認められる内部統制の枠組み
  • 内部統制の固有の限界

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

2. 評価の範囲、評価時点及び評価手続

内部統制報告書には、評価の範囲、評価時点及び評価手続についても記載します。

  • 財務報告に係る内部統制の評価の範囲(範囲の決定方法及び根拠を含む。) 
  • 財務報告に係る内部統制の評価が行われた時点財務報告に係る内部統制の評価に当たって、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠した旨
  • 財務報告に係る内部統制の評価手続の概要

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

3. 評価結果

財務報告に係る内部統制の評価結果の表明には以下の方法があります。 

  • 財務報告に係る内部統制は有効である旨
  • 評価手続の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効である旨並びに実施できなかった評価手続及びその理由
  • 開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でない旨並びにその開示すべき重要な不備の内容及びそれが是正されない理由
  • 重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない旨並びに実施できなかった評価手続及びその理由

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

4. 付記事項

さらに、その他の事項として、以下の項目を記載するケースもあります。

  • 財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象
  • 期末日後に実施した開示すべき重要な不備に対する是正措置等 

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

内部統制監査報告書の記載事項 

会計監査人による内部統制監査報告書には、以下の事項について記載が必要です。

  • 監査意見
  • 監査意見の根拠
  • 経営者及び監査役等の責任
  • 監査人の責任

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準では、具体的に以下の事項について記載することが求められています。

①  監査人の意見
イ. 内部統制監査の範囲
ロ. 内部統制報告書における経営者の評価結果
ハ. 内部統制報告書が一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠し、財務報告に係る内部統制の評価結果について、全ての重要な点において適正に表示していると認められること  

② 意見の根拠
イ.内部統制監査に当たって、監査人が一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に準拠して監査を実施したこと
ロ. 内部統制監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであること

③ 経営者及び監査役等の責任
イ. 経営者には、財務報告に係る内部統制の整備及び運用並びに内部統制報告書の作成の責任があること
ロ. 監査役等には、財務報告に係る内部統制の整備及び運用状況を監視、検証する責任があること
ハ. 内部統制の固有の限界

④  監査人の責任
イ. 内部統制監査を実施した監査人の責任は、独立の立場から内部統制報告書に対する意見を表明することにあること
ロ. 財務報告に係る内部統制監査の基準は監査人に内部統制報告書には重要な虚偽表示がないことについて、合理的な保証を得ることを求めていること
ハ. 内部統制監査は、内部統制報告書における財務報告に係る内部統制の評価結果に関して監査証拠を得るための手続を含むこと
ニ. 内部統制監査は、経営者が決定した評価範囲、評価手続及び評価結果を含め全体としての内部統制報告書の表示を検討していること
ホ. 内部統制監査の監査手続の選択及び適用は、監査人の判断によること

引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

内部統制監査報告書については、以下の記事を参考にしてください。

内部統制監査報告書とは│報告書の内容や内部統制報告制度の注意事項を解説

まとめ

証券市場に株式を上場している企業は、金融商品取引法の適用を受けることになります。金融商品取引法では、上場会社に内部統制報告書の作成を義務付けているため、経営者は自らの責任で自社の内部統制について評価し、評価した事項を内部統制報告書としてまとめ、公表しなければなりません。公表の際には、免除を選択した会社を除いて、会計監査人が行った内部統制監査報告書も合わせて公表する必要があります。上場会社は、自社の内部統制をしっかりと整備し、それが運用されているか否かの評価するために、内部統制報告書に記載すべき事項を理解しておくことが大切です。



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