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内部統制のウォークスルーとは|目的や評価の手順と注意点を解説

内部統制のウォークスルーは、組織が自身の運営を評価し、問題を発見し改善する重要な手法です。ウォークスルーの主な目的は、業務プロセスやシステムを精査し、リスクを特定し、コンプライアンスを確保することです。また手順は、計画、実行、報告、改善の段階からなり、徹底した分析と適切な文書化が欠かせません。


ウォークスルーとは業務プロセスに係る内部統制の評価手法の1つ

ウォークスルーは、業務プロセスに関する内部統制の整備状況を評価する手法の1つです。業務プロセス自体の理解や内部統制のデザインの有効性の評価などを行う際に用いられます。
この手法では、具体的な業務プロセスを実際に追体験し、関与する人々とコミュニケーションをとりながら、関連する資料を閲覧し、内部統制の整備状況を評価します。
業務プロセスに係る内部統制とは
業務プロセスに係る内部統制は、販売プロセスや購買プロセスなどの業務プロセスにおいて組み込まれている内部統制です。業務プロセスに係る内部統制の主な目的は、業務の有効性と効率性を高めながら、財務報告の信頼性を担保することです。
組織は、業務プロセスに係る内部統制を通じて、効率性の向上や財務報告を誤るリスクの低減を図ることができます。特に、財務諸表における不正対応の厳しさが増す中で、組織の信頼や持続可能性を担保することが不可欠です。組織がこれらの原則を遵守し、業務プロセスに係る内部統制を確立することで、効果的な運営と持続可能な成長を実現する土台を築くことができます。
業務プロセスに係る内部統制の評価の流れ
業務プロセスに係る内部統制の評価は、以下のような流れで行われます。
1.評価範囲の選定
最初に、評価対象となる業務プロセスを決定します。評価対象となる業務プロセスは、一般的に、重要な事業拠点の売上、売掛金及び棚卸資産に至る業務プロセスです。ただし、この3つの勘定を必ずしも評価しなければならない、あるいはこの勘定だけを評価すれば良い、というものではなく、会社の事業の特性や目的に応じて、検討されるべきです。
評価範囲の選定については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の評価範囲とは?評価の基準や決定のフローを順を追って解説
2.3点セットの作成
評価対象となる業務プロセスを理解するために、業務記述書、フローチャート、リスク・コントロール・マトリクスの3点セットを作成します。
3.整備状況の評価
3点セットをもとに、内部統制の整備状況を評価します。具体的には、業務記述書通りに内部統制が実施されているか、カバーできていないリスクがないか、などをチェックします。この過程で、一般的にウォークスルーを実施します。
4.運用状況の評価
整備状況の評価後は、内部統制が適切に運用されているかどうかを評価します。具体的には、評価対象期間で実施された内部統制から、いくつかサンプリングを行い、各サンプルにおいて適切に内部統制が実施されたかを再実施します。
5.評価結果の報告
評価結果を経営層や監査役などに報告し、最終的には内部統制報告書として開示します。
ウォークスルーは整備状況の評価で実施する
内部統制が計画された通りに機能しているか、実際の業務プロセスの中でどのように機能しているかを把握するため、ウォークスルーを実施します。関与する人々との対話や実地での観察を通じて、内部統制がどのように行われているかをチェックし、それがリスクに対応しているかを評価します。
この手法を通じて、計画された内部統制と実際の内部統制にギャップがあるかどうかを把握することが可能です。そして、そのギャップや問題点を特定し、改善点を見付け出すことができます。ウォークスルーは、理想と現実のズレを見極め、財務報告を誤るリスクが適切に軽減されているかどうかを客観的に評価するための重要な手法です。
ウォークスルーの実施目的

ウォークスルーの実施には主に2つの目的があります。
第一の目的は、内部統制の整備状況を評価することです。これは、理論や計画だけでなく、実際の現場での運用やシステムの稼働状況を目で確認し、実態把握を意味します。
第二の目的は、関連する人々との対話や観察を通じて、実際の業務手順と計画された手順との齟齬(すれ違い)を見付け出すことです。理想と現実のズレや実務の運用における違いを特定し、問題点や改善点を把握することが重要です。
ウォークスルーの5つのプロセス

ウォークスルーの5つのプロセスについて、以下に詳しく解説します。
1.評価対象となる業務プロセスの取引から、1つをサンプルとして抽出する
ウォークスルーの5つのプロセスのうち、1つ目のプロセスは「評価対象となる業務プロセスの取引から、1つをサンプルとして抽出する」です。このプロセスでは、以下の点に留意してサンプルを抽出します。
- 恣意性を排除してサンプリングする
- 評価対象期間中に発生したものをサンプルとする
- プロセスの始まりから終わりまで同じ取引のサンプルにする
2.サンプル取引の始まりから終わりまで、一連の業務の流れを文書化する
ウォークスルーの5つのプロセスのうち、2つ目のプロセスは「サンプル取引の始まりから終わりまで、一連の業務の流れを文書化する」です。このプロセスでは、以下の点を確認しながら、業務の流れを文書化します。
- 取引の発生から財務諸表に計上されるまでの一連の流れ
- 業務プロセスにおける各ステップの担当者
- 各ステップで実施される内部統制
業務の流れを文書化することで、取引の流れを把握することができます。また、評価の際に、客観的に取引の流れを検証できます。
業務の流れを文書化する際には、以下の点に留意するとよいでしょう。
- 簡潔で分かりやすい文書にすること
- 必要な情報を漏れなく記載すること
ウォークスルーでは、業務の流れを文書化することによって、評価の精度を高めることが可能です。
3.文書化作業で識別したコントロールのエビデンス(証憑書類)を確認する
ウォークスルーの5つのプロセスのうち、3つ目のプロセスは「文書化作業で識別したコントロールのエビデンス(証憑書類)を確認する」です。このプロセスでは、以下の点を確認します。
- 文書化作業で識別したコントロールが、実際に実施されているか
- コントロールが適切な方法で実施されているか
- コントロールが有効に機能しているか
エビデンス(証憑書類)とは、コントロールが実施されたことを示す資料です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 伝票
- 請求書
- 契約書
- 稟議書
- システムログ
- 画面スクリーンショット
ウォークスルーでは、エビデンス(証憑書類)を確認することで、コントロールの有効性を評価することが可能です。
4.該当する業務プロセスのコントロールの整備状況の有効性を確認する
ウォークスルーの5つのプロセスのうち、4つ目のプロセスは「該当する業務プロセスのコントロールの整備状況の有効性を確認する」です。このプロセスでは、以下の点を確認します。
- コントロールが、財務報告の信頼性を確保するために有効に機能しているか
- コントロールが、不正や誤謬の発生を防止するために有効に機能しているか
コントロールの有効性を確認するためには、以下の点に留意するとよいでしょう。
- コントロールが、アサーションの観点から適切に設計されているか
- コントロールが、業務プロセスの流れの中で適切なタイミングで実施されているか
- コントロールが、不正や誤謬の発生を防止するために十分な効果を発揮しているか
ウォークスルーでは、コントロールの有効性を評価することで、内部統制の整備状況を客観的に評価することが可能です。
5.必要に応じて、質問・資料の追加依頼・3点セットの修正を実施する
ウォークスルーの最終段階として行われる5つ目のプロセスは、必要に応じて追加の質問や資料の提出を求めたり、3点セットの修正を行うことです。この段階では、ウォークスルー中に浮かび上がった疑問点や不明確な部分に対して、関係者に追加の情報を求めたり、具体的な質問を行う場合があります。
さらに、ウォークスルーの過程で明らかになった問題や改善点に対処するため、3点セットの修正を行います。これにより、実際の業務プロセスやシステムの状況に合わせて、文書化された情報を最新化し、正確性を保つことが可能です。
このプロセスは、ウォークスルーが完了した後も継続して行われ、関係者の協力を得ながら、より精緻な情報と改善点を取り入れていく重要な段階です。ここでの調整や修正によって、業務プロセスやシステムの適切な整備や改善を促進し、内部統制の強化や効率性の向上に寄与します。
ウォークスルーに用いる3点セットとは

ウォークスルーに用いる3点セットとは、業務プロセスの概要を把握するための3つの資料です。具体的には、以下の3つが挙げられます。
- 業務記述書
業務記述書は、業務プロセスの流れを図式化し、業務の目的、範囲、責任、手順などを記述した資料です。ウォークスルーの実施前に、対象となる業務プロセスの概要を把握するために作成します。
- フローチャート
フローチャートは、業務プロセスの流れを図式化した資料です。業務記述書を視覚的に分かりやすくしたものであり、業務の流れを追跡するために活用します。
- リスクコントロールマトリクス
リスクコントロールマトリクスは、業務プロセスにおけるリスクとコントロールを整理した資料です。リスクコントロールマトリクスを作成することで、業務プロセスにおけるリスクを把握し、コントロールの対応関係を把握することができます。
ウォークスルーでは、3点セットを活用することで、対象となる業務プロセスを正確に把握し、効率的に評価を行うことができます。
内部統制の3点セットについては、次の記事を参考にしてください。
J-SOXで使用する内部統制の3点セットとは?語句解説から作成方法まで公開!
ウォークスルー実施時に留意すること

内部統制のウォークスルーを実施する際に留意することについて、以下にまとめます。
- 事前準備を十分に行う
ウォークスルーを実施する前に、業務の流れを正確に把握することが重要です。対象となる業務プロセスの概要を把握するために、3点セットの作成や担当者へのヒアリングを行うなど、十分な事前準備を行います。
- 客観的に評価する
ウォークスルーは、担当者の主観的な意見に左右されないよう、客観的に評価することが重要です。そのため、エビデンス(証憑書類)を収集し、複数の担当者からヒアリングを行うなどして、多角的な視点から評価するようにしましょう。
- 成果を文書化する
ウォークスルーの結果は、文書化して記録しておくことが重要です。文書化することで、評価結果を後から確認することができ、また、改善策の検討に役立てることができます。さらに、閲覧した資料も、どこがポイントなのか、何の数字をチェックしたのか、を客観的に把握できるよう、ハイライト等の加工をすることも重要です。
内部統制のウォークスルーにおける主な課題

内部統制のウォークスルーにおける主な課題について、以下に解説します。
1.作業量が多く時間がかかる
内部統制のウォークスルーにおける主な課題の1つは、作業量が多く時間がかかることです。ウォークスルーは、細部まで注意を払い、実地での観察や対話を通じて実態を把握する必要があります。このため、業務やシステムが複雑であったり、組織内の手順やプロセスが多岐にわたる場合、十分な時間とリソースを必要とする傾向があります。
この課題に対処するためには、ウォークスルーの計画段階での効果的なスケジューリングや、関係者との十分な調整が必要です。また、効率的な情報収集や整理のためのツールやプロセスの改善、そして作業の優先順位付けなどを行うことで、課題を克服し、ウォークスルーの効果的な実施を支援できます。
2.評価対象となる業務プロセスの特定が不十分である
内部統制のウォークスルーにおけるもう1つの主な課題は、評価対象となる業務プロセスの特定が不十分であることです。ウォークスルーを効果的に行うためには、対象となる業務プロセスやシステムを明確に特定し、評価対象を適切に定義することが重要です。しかし、組織内で全ての業務プロセスやシステムを把握し、評価することは容易ではありません。
この課題に対処するためには、評価対象となる業務プロセスを明確に特定するための基準が必要です。また、監査人との十分なコミュニケーションや協力を図り、評価対象を適切に把握するための情報共有を強化することが重要です。
3.代表的な取引の抽出が適切でない
内部統制のウォークスルーにおける別の課題は、代表的な取引の抽出が適切でないことです。ウォークスルーでは、代表的な取引を選んで評価することが一般的であり、これにより全体像が把握しやすくなります。しかし、適切な取引の選定が難しい場合や、代表的な取引が特定できない場合があります。
その要因の1つに挙げられるのは、取引の複雑さや多様性のために、全体像を把握する取引の選定が困難な場合です。また、新たな取引形態や変化が頻繁に起こることで、従来の選定方法では適切な代表取引を見極めることが難しくなります。
このような課題に対処するためには、代表的な取引を選ぶ基準や方法を明確に定めることが必要です。
まとめ

ウォークスルーは、内部統制の整備状況を評価する重要な手法です。
ウォークスルーの実施には、リソースの確保や関係者の協力が必要になります。しかし、整備状況の評価は、ヒアリングだけでは不十分なケースがあり、ウォークスルーのように実際に一連の取引を追跡して、必要な資料を閲覧することで事実確認を行い、業務プロセスの理解を深める必要があります。
ウォークスルーは内部統制の整備状況を評価するために有用な手段なので、是非、上述した点に留意して実施してみてください。
Co-WARCについて
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