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内部統制の不備一覧表の役割や記載項目は?開示すべき重要な不備とあわせて解説

内部統制は、企業の財務報告の信頼性を担保するために必要です。
しかし、複雑なビジネスプロセスや組織構造の変化に伴い、内部統制の不備が生じることがあります。これらの不備は、企業にとってさまざまなリスクを引き起こす可能性があり、適切な管理が求められます。
この記事では、内部統制の不備を効果的に管理するための重要なツールである「不備一覧表」の役割と、その記載項目について詳しく解説します。さらに、開示すべき重要な不備とは何かについても掘り下げていきます。


内部統制の不備とは

内部統制の不備とは、財務報告の信頼性を担保するための制度や手続に問題が存在する状態を指します。内部統制の不備は、企業の業績や信頼性に直接的な影響を与える可能性があるため、特に注意が必要です。
不備が発見された場合、企業は迅速に原因を特定し、適切な対応策を講じなければなりません。内部統制の不備には大きく分けて、整備状況の不備と運用状況の不備の2つの種類があります。
内部統制の不備については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の開示すべき重要な不備とは?判断基準や検出されたときの対応を解説
不備の種類①整備状況の不備
整備状況の不備が意味するのは、内部統制が適切に設計または整備されていない状況もしくはそもそも必要な内部統制が存在せずリスクが放置されている状況です。整備状況の不備は、リスク評価や内部統制の設計が不十分であるために生じます。
例えば、リスクコントロールマトリクス作成時におけるリスクの洗い出しが不完全であったり、内部統制によってリスクが低減できていなかったことが実際にミスが起きたときに判明したりという場合などが挙げられます。
整備状況の不備が放置されると組織全体のリスク管理能力に重大な影響を与える可能性があります。
そのため、企業は内部統制の整備状況を定期的にレビューし、必要に応じて内部統制システムの改善や強化を図る必要があります。
不備の種類②運用状況の不備
運用状況の不備とは、内部統制システムが適切に設計されていても、実際の業務運用においてそのシステムや手続が整備された通りに運用していない状況です。運用状況の不備は、内部統制の実施者が実施すべき内部統制を正しく理解していない、あるいは適切に実行していないことに起因します。
例えば、従業員によって内部統制の手順が一貫性をもって実施されていなかったり、管理者が内部統制の実施状況を適切にモニタリングしていなかったりといった場合などがこれに該当します。運用状況の不備は、従業員のトレーニング不足や意識の低さ、あるいは組織内のコミュニケーション不足が原因で発生することが多いでしょう。
そのため、企業は従業員に対する適切な教育や訓練を実施し、内部統制の意識を高めることが重要です。また、定期的な監査やモニタリングを通じて、内部統制の運用状況を評価し、改善の必要がある場合は迅速に対策を講じることが求められます。
内部統制の評価で不備を検出する流れ

内部統制報告制度における不備の検出は、重要なプロセスです。
内部統制評価は、企業の内部統制システムの有効性を判断し、必要に応じて改善策を講じるために行われます。不備の検出から是正には一定の手順があり、適切に実施することで、内部統制の問題点を効率的に識別し、解決できます。
1. 評価範囲の選定
内部統制評価の最初のステップは評価範囲の選定です。企業は、事業拠点や業務プロセスを網羅的に洗い出した後、内部統制報告制度上、評価対象とする事業拠点や業務プロセスを選定します。特に、評価対象する業務プロセスは、以下の手順にて識別します。
- 重要な事業拠点の選定
- 企業の事業目的に大きくかかわる勘定科目に至る業務プロセスの識別
- 個別に重要性の大きい業務プロセスの追加
前期の実績と当期の予算を基に評価範囲を決定します。
評価範囲の選定の過程において、過去の評価結果、取引の複雑さ、過去に発生した問題点、業界のリスク要因などは、必ず検討が必要です。
内部統制の評価範囲の決定については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の評価範囲とは?評価の基準や決定のフローを順を追って解説
2. 整備状況の評価
評価範囲が確定した後、次に整備状況の評価を行います。この段階では、選定された範囲内の内部統制が、設計通りに整備されているかどうかを確認します。
ポイントは、下記の3点です。
- 内部統制が文書化されているか
- 関連するリスクをカバーしているか
- 適切なチェックポイントが設けられているか
内部統制の整備状況を評価する際には、ウォークスルー検証などを行い、実際に内部統制が整備されているかを確認します。
ウォークスルー検証については、次の記事を参考にしてください。
内部統制のウォークスルーとは|目的や評価の手順と注意点を解説
3. 運用状況の評価
整備状況が適切であると評価されたなら、次に日常業務での内部統制の運用状況を評価します。運用状況の評価は、設計された内部統制が実際の業務で実行されているかを確認するために必要です。
内部統制の運用状況は、実際に整備された通りに運用されているか、複数のサンプルについて確認することで評価します。
また、内部統制の運用に関する証拠を収集し、適切な記録が保持されているかも確認します。
4. 不備の特定と報告
整備状況や運用状況の評価を通じて、内部統制に不備が見つかった場合は、不備内容を特定し、報告する必要があります。不備の報告は、不備の内容、不備の原因、影響の範囲、推定影響額などを詳細に記述することが求められます。
また、不備が発見された場合は、適切なレベルの管理者に迅速に報告し、必要に応じて是正措置を講じる必要があります。
報告手続は、内部統制の問題を明確にし、上層部や必要に応じて監査役や監査委員会に情報を提供するために重要です。
不備の集計は、個々の問題を全体的なコンテキストの中で評価するために行われます。
これにより、特定の不備が単独の問題なのか、それともより広範なシステムの不備の一部なのかを判断できるでしょう。
集計された情報は、後の是正措置の計画立案に役立ちます。また、不備の傾向やパターンを特定することで、将来的な不備の予防策につながる洞察を得ることも可能です。
5. 是正措置の実施と再評価
最後に、特定された不備に対して適切な是正措置を計画し実施します。不備の是正は、問題が発生した根本的な原因への対処が目的です。
是正措置には、プロセスの改善、システムのアップデート、従業員のトレーニングや意識向上プログラムの実施などが含まれることがあります。重要なのは、ただ問題を一時的に解決するのではなく、再発を防ぐために根本原因を取り除くことです。
是正措置が完了した後は、企業は再評価手続を行い、講じた措置が効果的であったかを確認します。再評価の目的は、是正措置が不備を解消し、内部統制システムの全体的な強化に貢献しているかを検証することです。
必要に応じて、追加の改善策を実施することもあります。再評価手続は、内部統制の持続的な改善を保証するために重要な役割を果たします。
内部統制評価で不備が検出されたときの対応は、企業のリスク管理と運営の透明性を向上させる重要な機会です。迅速で効果的な対応は、企業の長期的な成功と持続可能性を支えるために不可欠です。
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不備の集計には一覧表を用いるのが効果的

内部統制の評価過程で検出された不備を効果的に管理し、分析するためには、不備の集計に一覧表を用いることが有効です。一覧表を使用することで、発見された不備を網羅的に集計でき、組織全体での不備の傾向と対策の優先順位と財務諸表全体への影響を明確にすることが可能になります。
また、一覧表を用いることで、不備の進捗状況を追跡し、管理者や監査法人への報告を容易にします。なお、不備一覧表には決まったフォーマットはありません。そのため、以下では、一般的な不備一覧表の活用方法と具体例を解説します。
不備一覧表の活用方法
不備一覧表の活用は、組織内のコミュニケーションと協力を促進し、不備の解決に向けた効率的なアプローチを実現します。不備一覧表は、不備の検出から是正措置の完了に至るまでの全過程で活用されます。
まず、不備が発見され次第、関連情報を一覧表に記入します。その後、一覧表は定期的に更新され、不備の是正状況や追加情報が反映されます。内部監査チームは、この一覧表を使用して不備の進捗を追跡し、必要に応じて是正措置を調整します。
また、一覧表の役割は、組織内の関連部署や上層部とのコミュニケーションツールとしての機能や、不備に対する組織全体の理解と対応促進です。
不備一覧表の記載項目の例
効果的な不備一覧表には、以下のような記載項目が含まれることが一般的です。
- 不備の識別番号:各不備に一意の識別番号を割り当て、追跡を容易にします。
- 発生日付:不備が検出された日付を記録します。
- 事業拠点:不備が検出された事業拠点を記載します。
- 内部統制の種類:不備が検出された内部統制の種類を記載します。
- 業務プロセス:業務プロセスの評価の場合、不備が検出されたプロセスを記載します。
- 発見された部署/担当者:不備を検出した部署や担当者の情報を記入します。
- 不備の種類:整備状況の不備か、運用状況の不備かを記載します。
- 不備の概要:不備の内容を簡潔に記述します。
- 影響範囲:不備が及ぼす影響の範囲を評価し、記載します。
- リスクレベル:不備の重要度や緊急性を評価し、リスクレベルを割り当てます。
- 原因の分析:不備の発生原因を分析し、記録します。
- 是正措置:不備を解消するための計画されたまたは実施中の措置を詳述します。
- 進捗状況:是正措置の進捗状況や完了予定日を更新します。
- 最終評価:不備が解消された後の最終評価を記載します。
不備一覧表の使用は、内部統制評価における不備の管理を標準化し、整理するための重要なツールです。不備一覧表により、組織は不備を網羅的に評価でき、内部統制の継続的な改善が期待できます。
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内部統制の開示すべき重要な不備とは
開示すべき重要な不備とは、企業の財務報告に重要な影響を与える可能性が高い内部統制の不備のことを指します。開示すべき重要な不備は、企業が公開する財務情報の信頼性を著しく損なう可能性があり、投資家や市場の決定に重大な影響を与えるため、適切に開示し対処することが重要です。
内部統制の不備の事例については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の不備の事例とは?開示すべき重要な不備の判断基準も解説
内部統制の開示すべき重要な不備の判定基準
内部統制における開示すべき重要な不備の判定基準は、質的重要性と金額的重要性の2つの側面から評価されます。これらの基準は、不備の重要性を判断する際のガイドラインを提供し、企業が適切な開示と対応策を策定するのに役立ちます。
質的重要性の判定基準
質的重要性の判定基準は、不備が財務報告に与える影響の性質や程度に基づいて評価されます。この基準は、金額的な側面だけではなく、不備が投資判断や企業の評価に与える影響を考慮します。
質的な重要性は、例えば、上場廃止基準や財務制限条項に係る記載事項など投資判断に与える影響の重要性や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項など財務諸表の作成に与える影響の重要性で判断する。
質的重要性は、金額的な影響が小さい場合でも、投資家の意思決定にとって重要な影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要です。
金額的重要性の判定基準
金額的重要性の判定基準は、不備が財務報告に及ぼす金額の大きさに基づいて評価されます。
金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断する。これらの比率は画一的に適用するのではなく、企業の業種、規模、特性など、会社の状況に応じて適切に用いる必要がある。
例えば、連結税引前利益に対する不備の影響が一定の割合を超える場合、その不備は金額的重要性が高いと判断されます。
内部統制の開示すべき重要な不備の事例
内部統制における開示すべき重要な不備にはさまざまな事例が存在します。
以下では、具体的な事例とその背景を挙げ、企業がどのようにしてこれらのリスクに対処すべきかを示します。
- 決算における不備ある企業では、決算に関する不備が発覚しました。このケースでは、監査法人による監査中に不適切な会計処理が指摘があり、セグメント情報やのれんについての修正が必要となりました。このような不備は、財務報告の信頼性を直接的に損なうため、開示すべき重要な不備として扱われるべきです。決算の不備は、会計方針の誤解や不適切な情報伝達に起因する可能性があり、これを是正するためには、会計基準の適切な適用と、内部コミュニケーションの強化が必要です。
- IT統制の欠如企業がITシステムに関連する内部統制を適切に設計・実施していない場合も、重要な不備となり得ます。例えば、アカウントの付与基準が不明確であり、不必要に高い権限を持つユーザーが多数存在するケースです。これは、不正アクセスやデータの不適切な操作といったリスクを高め、財務報告の正確性や機密性に重大な影響を与える可能性があります。IT統制の不備は、技術的な問題だけでなく、組織の方針や手順の問題も含まれるため、これらを是正するには、システムセキュリティの強化と従業員の教育が不可欠です。
これらの事例は、内部統制における開示すべき重要な不備がどのような形で現れ、企業の運営にどのような影響を与える可能性があるかを示しています。
不備の発見と開示は、企業がこれらの問題に対処し、改善を図るための第一歩です。
重要なのは、不備が発見された際に適切な是正措置を迅速に実施することです。これにより、企業は信頼性を保ち、長期的な成功を確保できるでしょう。
まとめ

内部統制の不備一覧表は、企業のリスク管理と財務報告への影響度合を測るための重要なツールです。一覧表には不備の識別番号、発生日付、該当する内部統制、概要、影響範囲、原因分析、是正措置などが記載され、企業はこれを利用して不備を効率的に追跡し、是正措置の進捗をモニタリングします。
重要な不備、特に質的重要性と金額的重要性に基づいた不備は、財務報告の信頼性に直接影響を及ぼすため、特別な注意が必要です。これらの不備の適切な管理と開示は、企業の信頼性維持と長期的な成功に不可欠です。
本記事を通して、内部統制の不備に対する深い理解と効果的な対応策を得ることができるでしょう。
Co-WARCについて
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