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内部統制の開示すべき重要な不備とは?判断基準や検出されたときの対応を解説

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公開日:2024.01.12
最終更新日:2025.06.25
内部統制
内部統制の開示すべき重要な不備とは?判断基準や検出されたときの対応を解説

内部統制の整備及び運用において、「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に大きな影響を及ぼす可能性が高い不備のことをいいます。

内部統制の整備及び運用における不備についての理解が乏しいことで、不適切な財務報告が行われ、ステークホルダーの利害に大きな影響を及ぼし、最悪の場合、刑事事件に発展する可能性もあります。

本記事では、具体的な不備の解説に加えて不備を見つけたときの適切な対処法を解説しています。本記事を読むことで、会社のリスクを最小限に抑え、透明性を確保するための手段を理解できるでしょう。

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内部統制の不備の種類

内部統制における不備には、「整備状況の不備」と「運用状況の不備」の2種類があります。本章では、これら2つの不備に注目して解説します。

整備状況の不備

整備状況の不備とは、リスクに対応する必要な内部統制が存在しない、あるいは内部統制が存在するものの不十分である、というものです。整備状況の不備は、財務報告における虚偽記載が発生するリスクが大きくなります。

例えば、外注先への支払プロセスにおける整備状況の不備を考えてみましょう。支払プロセスは、一般的に担当者が請求書をもとに支払データを作成し、その支払データを上長が確認してから支払処理を実行するという流れになっています。

しかし、上長の確認がない場合、担当者の金額入力ミスや請求書の処理漏れが発生により、誤った支払処理を実行してしまうリスクが一定程度発生します。この状態が整備状況の不備です。

運用状況の不備 

運用状況の不備とは、内部統制が適切に設計されてるが、設計通りに実務が行われていない状況をいいます。内部統制の実施者がその内部統制の意図を誤解したり、重要性の理解が浸透していなかったりすることによって生じる不備です。

例えば、さきほどの例と同じ外注先への支払プロセスの場合を考えてみましょう。上長は、担当者が作成した支払データをチェックする内部統制を実行する必要があります。しかし、その確認作業の重要性を理解していない上長は、確認を怠る可能性があります。

いい加減な確認で済ませた場合、担当者が作成した支払データのミスに気づかず、結果として誤った支払処理を実行してしまうリスクが発生します。この状態が運用状況の不備に該当します。

内部統制評価の流れ

内部統制評価の流れは以下3つの手順で行います。

  1. 評価範囲を選定する
  2. 整備状況を評価する
  3. 運用状況を評価する

では、それぞれの手順を詳しくみていきましょう。

1.評価範囲を選定する 

内部統制の評価範囲を選定する際は、親会社や子会社の規模、業務プロセスの重要性などを考慮しながら選定する必要があります。

全社的な内部統制や決算・財務報告に係る業務プロセスの評価範囲は、原則全ての事業拠点での評価が求められます。

ただし、例えば、売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして、評価の対象から外すといった取扱いが考えられます。

一方、決算・財務報告以外の業務プロセスの評価範囲は、まず重要な事業拠点を選定し、その重要な事業拠点から評価対象とする業務プロセスを識別します。

具体的には、重要な事業拠点は、売上高などを用いて金額の高い拠点から合算し、全体の一定割合(例えば、概ね3分の2程度)に達するまでの拠点を選定していきます。

その後、重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目(一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金、棚卸資産)に関わる業務プロセスは、原則として全て評価対象とし、その他、個別に重要と判断されたものも評価対象として選定します。

個別に重要と判断されるケースとして、リスクの高い非定型取引や予測・見積もりが伴う業務プロセスなどが挙げられます。

以上により、内部統制評価の手続は、リスクアプローチ(リスクの大きさを勘案して評価範囲を決定していく手法)に基づいて実施されます。

内部統制の評価範囲については、次の記事を参考にしてください。
内部統制の評価範囲とは?評価の基準や決定のフローを順を追って解説

2.整備状況を評価する

整備状況の評価とは、リスクに対応した内部統制が存在するか、あるいはその内部統制がリスクに対して有効かを評価することです。

整備状況の評価では、業務全体の流れを把握し、それを文書や図に書き起こし、想定されるリスクに対応した内部統制が存在するかをチェックします。

業務全体の流れを把握するには、ウォークスルーと呼ばれる手続を実施することが一般的です。

ウォークスルーとは、整備状況の評価を行う手法の1つで、1つの取引の開始から終わりまでを追跡して流れを把握する手続です。追跡するにあたって、資料間の数字の整合を確認したり、どのように資料が作成されているかをヒアリングしたりすることで業務全体の流れを把握していきます。

ウォークスルーについて、次の記事を参考にしてください。
内部統制のウォークスルーとは|目的や評価の手順と注意点を解説

3.運用状況を評価する 

整備状況の評価後は、運用状況を評価します。これは、整備状況で確認した内部統制が適切に定期的に実施されているかを確認する作業です。運用状況の評価にはサンプルテストを使用します。

例えば、ウォークスルーで実施した取引を含む複数のサンプルを入手し、全てのサンプルで適切に内部統制が実施されているかを確認します。このサンプルテストを通じて、会社が設定した内部統制が適切に守られ、異常がないかなどを評価します。

これらの整備状況と運用状況の2つの評価により、継続的な内部統制の有効性について評価できるのです。

内部統制で不備が検出されたときはどう対応する?

内部統制で不備が見つかった場合には以下4つの手順を実施します。

  1. 不備を報告する
  2. 不備の原因を究明する
  3. 是正活動を実施して再評価する
  4. 開示すべき重要な不備かどうかを判定する

1.不備を報告する

例えば、販売プロセスに係る内部統制の運用状況を評価した際に、本来承認作業があるべき売上について、未承認となっていたことを発見した場合は、不備として取り扱うことが一般的です。

このような不備の可能性を発見した場合、不備かどうかの事実確認を行うために、内部統制の実施者や関連する従業員にヒアリングを実施する必要があります。場合によっては、例外処理であったり、代替された内部統制で補完していたりするケースがあるためです。

2.不備の原因を究明する

不備が発生した場合は、会社は原因を究明し、詳細な調査に注力します。

ただし、原因究明の結果、「経理部の管理者の承認上の不注意であった」といったような報告だけで終えるのではなく、承認にかかる時間の不足や承認の必要性なども検討し直すことが重要です。

つまり、改善策を講じる上では、単に「承認を行う管理者が今後は注意する」ということではなく、仕組みとしてどう解決していくかが、ポイントになります。

3.是正活動を実施して再評価する

不備の発覚後は、是正活動を実施してから再評価を行います。

是正後、しばらく内部統制を運用し、その運用された内部統制に関して、後追いで再度サンプル評価を実施して不備が是正されたかをチェックします。

仮に不備が是正されていない場合、再度是正活動を行って、一定の運用期間を経て再評価を繰り返します。

4.開示すべき重要な不備かどうかを判定する

期末時点で不備が是正できていない場合でも、直ちに開示すべき重要な不備になるとは限りません。開示すべき重要な不備は、その不備が財務報告に与える質的・量的重要性を勘案して、決定されます。

また、複数の不備が組み合わさって、開示すべき重要な不備となる場合もあるので、不備を漏れなく集計して、全体として評価することが必要です。

開示すべき重要な不備の2つの判断基準

内部統制の開示すべき不備の判断基準には、「金額的重要性」と「質的重要性」の2つの要素があります。不備の判断基準は金額的に重要であるか、質的に影響が大きいかどうかを考慮して検討する必要があります。

金額的重要性の判断基準 

金銭的重要性の判断基準は、発生した不備がどの程度金額的影響を及ぼすかによって判断します。その金額的影響が重要か否かは、会社の売上や利益により変わりますが、例として連結税引前利益のおおむね5%をもって重要と判断するケースが挙げられます。

質的重要性の判断基準 

質的重要性の判断基準は、投資家の意思決定にどの程度影響を及ぼすか、により判断します。関連当事者との取引や財務制限条項に関する項目などが挙げられます。

内部統制の開示すべき重要な不備の事例

本章では、内部統制の「開示すべき重要な不備」に該当する実例をご紹介します。「不適切な会計処理の報告事例」と「不正な取引の報告事例」に分けてそれぞれ解説します。

内部統制の不備の一覧表は、次の記事を参考にしてください。
内部統制の不備一覧表の役割や記載項目は?開示すべき重要な不備とあわせて解説

不適切な会計処理の報告事例

A社では、Webサイトの書き込みにより、過去の取引における不適切な会計処理の可能性が発覚しました。その後、速やかに第三者委員会を設置して調査にあたりました。

調査の結果、複数の不適切な会計処理が確認され、同社は開示すべき不備であると判断し、内部統制は有効でないと訂正内部統制報告書で報告しています。

報告後は、第三者調査委員会を設置し再発防止策として「コーポレートガバナンス見直し」や「売上重視の経営方針見直し」、「経営監視委員会の設置」、「経理管理部門の強化」などを実施すると報告しました。

その後同社は、上場廃止となり、B株式会社に当社株式の全てが継承され、B株式会社子会社として報告されています。

不正な取引行為の報告事例

C社では、不正な取引行為の報告(金融商品取引法違反の嫌疑)で証券取引等監視委員会の強制調査がきっかけとなり、グループ全体の内部統制の不備が発覚しました。

訂正内部統制報告書で内部統制に不備があると判断されたことを報告しています。再発防止策として「代表取締役の異動」や「取締役・監査役会の強化」、「内部監査室の設置」、「投資委員会機能の強化」などの対策を実施するとしています。

その後、金融商品取引法第185条の6の規定に基づき、代表取締役社長に対して課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されました。翌年に上場廃止となり、破産手続開始決定を受けています。

まとめ

内部統制の開示すべき重要な不備についての理解は深められたでしょうか。

本記事では、内部統制の基本知識だけでなく、開示すべき重要な不備の判断基準や具体的な事例、発覚時の対応方法について紹介してきました。

内部統制の不備が明らかになった場合は、的確かつ効果的な対応プロセスにより是正活動を行います。具体的には、不備の報告から不備の原因究明、是正活動の再評価、そして開示すべき不備の判定という手順で対応することになります。

これらの手順は会社が迅速に問題を解決し、透明性を確保するための重要なガイドとなります。内部統制の不備を見つけたときの対処法として参考にしてください。


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